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Bruno Major(ブルーノ・メジャー)"Easily"ミュージックビデオの考察とレビュー

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ロンドンのインディーズ、シンガーソングライターのブルーノ・メジャー。2016〜2017年に1ヶ月に1曲の新曲を1年間リリースする企画で人気沸騰したらしい。

スローテンポなR&Bで、メロウな楽曲が多くて、どことなくサム・スミスに近い。どうやらサム・スミスの前座も務めたことがあるみたいだ。

 

もともとギタリストらしく、シンガーソングライターどうこう以前にまずギターが非常にイケてる。Jazz/Bluesスタイルでダイナミクスのコントロールがすごく繊細。

 “Easily”はSpotifyで1000万回再生されるほどヒット。ジャズリフがセンチメンタルなトラックに溶け込んでいて、ドラムの音符の少なさ故のリズムの溝は、ゆったりとしたジャジーな空気感を引き起こし、ちょっと苦くて悲しい雰囲気になっている。

おまけにこの曲のミュージックビデオが非常に良い。

 

youtu.be

 

 

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シネマライクなこのミュージックビデオ、まるでヒューマンドラマのエンディングを見ているようだ。

Easilyのサウンドもさることながら、この男の日常が非常に寂しく、そして悲しくさせる。

不真面目な生徒にうんざりし、薄暗いスーパーに一人で寄り、腹を満たすためだけのような食事をとりながら、輝かしかった過去の、自分の試合ビデオを見る。

当時のユニフォームを寝巻きにして、歯を磨いて、トロフィーを磨き、夢を見る。

どう見たって彼は良かった過去だけに囚われ、前進することを忘れてしまっている男だ。

彼が眠りについて見る夢は、彼が欲しかった全てが描かれている。しかし、それは”何かに挑戦する男”が目指す野心に溢れた未来を展望するものではなく、現実には訪れない理想だ。未来の無い生き方をしていることに気づかず、時間を消費してしまっている。なんとも苦い気持ちになるが、人ごととも思えないリアルだ。子供の頃は、将来の夢はありったけに広がっていたが、大人になるとこの先に広がっている未来なんてたかが知れてしまう。こんな人生だったら良かったと、過去を改変するだけの想像は未来を失くしてしまう、そんな風に語りかけられているようにも感じる。

投げたボールがヒットする男は、ブルーノ・メジャー本人だ。彼に対してボールを投げることは、ブルーノ・メジャーは反主人公的なキャストということだろう。彼とは逆にいる挑戦する男だ。

横にいた女性は、彼が一人であることの象徴のように見える。彼にはなぜ妻、家族がいないか?そのリアルな理由には言及しない。なぜならこれは"彼の理想"だから。彼にとって都合の悪いことは現実世界の見ぬふりしてきた過去に置いてきぼりだ。

『俺はスポーツと戦って来た、ずっと忙しかったんだ』そんな風に正当化して、孤独の理由にしているんだろう。気にくわない男といい雰囲気だった女性が既婚者だったら、なおさら気分がいいはずだ。

一斉にその場の全員が笑うが、過剰な笑顔がどうしても悲しい。外からみていると、気持ち良さそうな寝顔の彼が笑われているようにしか見えないからだ。

Appleが資金提供し制作されたこのビデオ、ただの"イメージ"ではなく楽曲の魅力を何十倍にも引き出している秀逸なビデオだった。

 

 

そしてもう一曲、名曲“Like Someone in love”のカバー。Chet Bakerのバージョンにかなり近く多分影響も受けているだろうしコードも引用されている。J Dillaフィールなリズムがミックスされ、絶妙な"ズレ"感で揺らす。Contemporary Jazzな潜在能力もプンプン匂わせ、良い意味でシンガーソングライター離れしたミュージャンズミュージャン的魅力を兼ね添えている。

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