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『gifted/ギフテッド』入念ってどういう意味?考察 レビュー ネタバレ

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※ネタバレ

何年かに一度は天才的子役に巡り合う。『ルーム Room』(15年/レニー・エイブラハムソン)のジャック(ジェイコブ・トレンブレイ)が空を見上げた時の眼差しは、あの年一番の天才的演技だったと覚えているが、ママ役/ジョイとシャワーでふざけあうシーンの、あまりにも自然体な“子供”の仕草、表情は、演技なのかわからなくなるほどリアルだった。そのはず、あのシーンはオフショットでこっそりと監督が回していたらしい。

『gifted/ギフテッド』では、そのシャワーシーンのような自然体で可愛らしくリアルな子役演技が全編にかけて観れるのだから、メアリー・アドラー役、マッケナ・グレイスは、演劇的才能のギフテッドだと、覚えたての用語を使いたくなった。

 

 

 

さて、出来事ははっきりとしていてわかりやすい。閉鎖的な英才教育か、子供らしく普通に育てるかという2択の中で、大人のそれぞれ違った価値観とがぶつかり合い、どんな選択を得て日常に戻るか?ということだ。

 

メアリーには天才的な頭脳があり、バシバシ天才っぷりを発揮するが、遊び心溢れた子供らしい純粋な姿は普通の7歳だ。メアリー自身がどちらかに振り切っているわけではない。

 

反面、大人は二分している。フランクとメアリーという対象的な人物を通して、メアリーにとってどちらが幸せなのか、2つの選択肢として提示する。

「ゴキブリにヒールを盗まれそうになった」とボヤきながら高級車に乗り込むイヴリン、船の修理屋で90年代のやれたピックアップを足にするフランク、フロリダ州タンパという小さな町とマサチューセッツ州。とにかく対象的で、その上裁判に持ち込まれるたらどちらか決めなければならないのだから、観ている側としても、選択肢は二つ、どちらかに決めるという思考で観てしまう。とはいえメアリー自身は天才であり子供であり、その二面性が最大の魅力だからこそ、出来上がるドラマだ。

 

そして妥協案のはずなのに、最悪の選択肢が持ち上がる。これがフランクとメアリーにとって最大で最後の困難、葛藤だ。

 

この判断が想像以上に大きな問題を生んだことに気づくのは早く、不安定なフランクの姿を見せられる緊張感も割とすぐに緩和されるが、至るまでのプロセスに愛猫のフレッドが大きく関わったことが、家族愛としての象徴的なエピソードだ。メアリーにとってもフレッドにとっても適切な居場所がある。家族愛とは程遠いアドラー家との対比でもあった。片目が見えないフレッドの不自由さはメアリーとも通づる部分がある。

 

イヴリンは、ダイアンが遺したミレニアム問題の証明と引き換えにメアリーを諦めた。彼女にとっては名声が一番なのだから非情な女である。ダイアンが自殺したことに何ら責任を感じていない。

一方でフランクは、メアリーをガールスカウトに参加させ普通の子供らしく育てながら、大学の授業も受講させている。ここまでの困難から得た教訓のもと、メアリーにはメアリーらしい教育をしている。選択も妥協案も間違っていたが、意味あるものに変えられるかが重要である。

 

フランクは法廷の中で、哲学専攻の元大学助教授という前職が明らかになった。フランクには、そこはかとなく漂う悟り感と無感情な雰囲気が前半に感じた。メインプロットはメアリーにあるが、サブプロットとしてフランク個人的な問題等の描写や葛藤も絡むと待っていたが、それらしい言及はされなかった。姉の自殺を抱え、ましてや現役を退いた哲学者であることがキモで、『教授のおかしな妄想殺人』(15年/ウディ・アレン)のように、鬱々とした状況から脱するようなフランク本人のディテールをもう少し知りたい気持ちにもなった。

 

 

それから、ダイアンの証明を保管していた金庫のようなものは、最後に取り出す時意外に描写があっただろうか?結末として決定的だからこそ、伏線は必要だったと思うが、記憶が無い。

赤ん坊を抱いたダイアンを説得した話も最後に、本当の話としてクライマックスの重要な部分だが、バーでボニーに話した内容だけでは、どうもインパクトに足らない。

あの時点で、フランクの話の裏に、もっと何かありそうな疑念を持たせる会話にしたら、最後の話の衝撃はもっと強かったはず。

 

反面、メアリーだけは完璧だ。

冒頭の『それで、入念ってどういう意味?』も

『おはようございます〜スティーヴンソンせんせい〜』もたっぷりの皮肉が効いていて素晴らしい。