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完璧すぎる快作ローガン・ラッキー 考察・批評

オーシャンズシリーズ(11,12,13)のスティーブン・ソダーバーグ監督最新作、「ローガン・ラッキー」。ソダーバーグの絶対に外さない構成力、編集力ーー編集を兼任する場合が多いーーで毎作一定水準を超えてくれる安心感もありながら、オーシャンズシリーズ以来のケイパー映画(チーム強奪)となる今作は、オーシャンズファンならば2018年公開「オーシャンズ8」よりも注目すべき作品といっても過言ではない。

 

オーシャンズシリーズよろしく、巧みに計算された綿密な強奪計画に加え、随所にギャグを挟みながら、テンポ良く展開させる。その重要なファクターとなるのがキャラクター造形だ。

 

絵に描いたようなブルーカラー感溢れる設定のジミー・ローガン(兄)と、精神不安定で義手のクライド・ローガン(弟のバーテンダー。以下クライド)は、そんな観客の第一印象に強烈なアッパーをかますかのように、マックス・チルブレイン率NASCARチーム3人を一掃する。ジミーの強靭な戦闘力もさることながら、まるで日課であるかのような手際の良さで火炎瓶作製から投下まで流れるようにこなすジミーにも心を掴まれる。

気になるのが、彼らが語る“ローガン家の呪い”だ。これだけ連呼するならば、その“呪い”がどこかのプロット上ーーあるいはストーリー展開上ーーで何らか影響を及ぼすに違いない。

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ダニエル・クレイグ演じる爆弾のプロ、ジョー・バングも最高のキャラクターだ。いかにも悪そうな見た目から、壁だろうがビルだろうがド派手に吹っ飛ばしてくれると思いきや化学反応を利用した爆薬で、さらには方程式を壁に書き連ね、全く似合わない偏差値で笑わせてくれる。そのくせ仲間へ渡す爆薬の説明書は“1を2に混ぜる、2を3に混ぜる、3を4に混ぜる、逃げろ”という見た目通りの大雑把さだ。緩急が効いていて素晴らしい。

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強盗・強奪映画は山ほどあれど、リアルでコミカルで効率よくテンポよく、そして地味に斬新なローガン・ラッキーの強奪作戦は見事に秀逸だった。POSシステムをダウンさせるのは初めて観た気がするが、標的となるレース上の収益を現金化するだけでなく、さらには販売情報管理が曖昧になったことから、強奪金を返却して自体を収束させるーー実際はピンハネしているため強奪成功、POSの件により損害金が不明確、さらにはサーキット経営者は盗難保険の悪用で一儲けーーことにまで繋がると一頻りの満足感がある。吸引機でお金を吸い上げる絵面もチープなギミックなのにバサバサと吐き出される絵面がこちらのストレスまで解消してくれるような感覚だ。

ラストでは、時期を見てお金を掘り起こし、ジミーのバーに集まり楽しく飲んでいるが、ジミーがお酒を注いだ一見さんはFBI特別捜査官のサラだった。最後に悲惨な目に合うローガン家の呪いは健在というオチでスッキリ着地。

 

 

 

 

さて、ここまでは割とライトな感想としつつ、映画職人ソダーバーグのもう一段階深いメタ的なところまで掘り下げたいと思う。

まずは刑務所についてだが、中で起きている事件・事故などをとにかく隠蔽しようとする所長の姿がしつこく描かれる。権力者、社会上層部が、既得権益やその地位を守ろうとするばかりに起きる事なかれ主義体質への社会風刺だ。

サーキット経営者が、犯人への処罰よりも保険金で儲かるならと告訴を取り下げるのも、然るべき処置と損得を天秤にかけてしまう点もそうだ。盗んだ側も捜査の手が及ばず、盗まれた側も得ならwin-winで良いのかもしれないが、こういったパターンは、類推するとフォードピント事件や三菱リコール隠しと、根源的な思考回路は変わりない。

所長も経営者も最終的には強盗を手助けする形となり、現代社会を皮肉る結果となっている。

 

劇中のテーマ曲、カントリーロードが物語るウェストバージニア州を舞台とした今作は、アメリカの激化する格差社会について考察されている。アメリカ企業では従業員とCEOの給料が一時500倍にも格差が広がったように、一部の金持ちとその他大勢の貧困層という構図は社会問題だ。中流階級でさえ、一度職を失えば一気に貧困層へと落ちてしまう。クライドはラグビー選手から怪我で引退、ジミーはイラクで腕を吹っ飛ばされバーテンに。田舎町で、NASCARサーキット上の下で作業したり、二人と対照的な人物として、キャラクターとしてセレブな元妻の夫や、所長などが配置されていたりと、これでもかと丁寧に格差社会を舞台にしている。

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弱いものが強いものに立ち向かうーーあるいは強かったが弱くなったところからの大逆転劇ーーのは映画の中ではそれが面白いのだから当然と言えば当然だか、なるべく登場人物を取り巻く状況に現実と重ね合わせることができるとよりロマンがある。落ちぶれた奴らの大強盗計画ほど面白いものはない。結局ローガン家の呪いでダメでした、とはならずあくまでもハッピーエンドとして終わるが、その呪いのオチどころも想像させるから上手い。映画のその後を想像すれば、所長も悪質な運営の仕方は公になり処罰を食らうだろうし、そこまで悪者じゃなかったが元妻の再婚相手も最新のマスタングをボロボロにされるというほどほどに抑えた仕打ちも

いい塩梅。

NASCARチームのオーナーのマックスも、落ちこぼすことなくオチをつけていて完成された脚本と編集だった。

 

綺麗に全てをまとめあげて、終わるべき所でサクッと終わる。完璧な映画じゃないか!

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