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new balanceの時代と世代、何を履くか。

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数あるスポーツシューズブランドの中でも、今もなお母国生産を続けるブランドは少なく、new balance1906年にボストンでスタートして以来MADE IN USAのラインナップを数多く生産し続けている希少なスポーツブランドだ。

スニーカーも、機械で作る工程が増えたとは言え、まだまだ手作業の工程は多い。自分が履く靴は、どんな人の手で作られたものがいいか?

 

そんな自問自答を繰り返しながら、買い続けてきたmade in usaのnew balanceについてを自分なりの目線で話したい。

 

んな人か、によって変わる名品版

1000番台、900番台、500番台が主にUSAメイドで生産されているが、日本で特に知名度が高いのはM1300,M1400,M996だと思う。2011年頃にアジア生産版の996が発売されると知名度は一気に増した。その後のベストセラーMRL996や、現行のCM996の浸透度も考えれば、996というワードは一番認知度が高いと思う。ただし、MADE IN USAのM996の存在を認知している人はある程度スニーカーやファッションに感度の高い人たちに絞られることは間違いない。

 

 人気品番は世代やファッションへの関心度でも大きく変わるが、例えばヴィンテージウェアやラグジュアリーブランドに造詣が深ければM993やM990 V3をピックアップするだろつし、プレミア好きな人はM1300に一番価値を感じているかもしれない。はたまた、追い求めすぎてM2040を忘れられない人もいるだろうし、40代〜50代だとM576のコードバンが真っ先に浮かぶ人も多いと思う。

ここ最近ではアジア生産でも、トレイル系への注目も高まっておりML850、ML801などの復刻と再評価、"the Apartment"のML850GTXの盛り上がりも記憶に新しい。

 

NEW CITY BOYとM1400

ここ10年での日本のnew balanceブームの中でも特に盛り上がっていたのは2011~2012年頃だと実感している。約10年前のそれが、現在につながっているのは言うまでもないから外せない話だ。

その頃はnew city boyブームで、老舗ブランドのアイテムに、丸メガネ、白ソックス、トラッドを着崩すようなスタイルの人たちが溢れた。

この2012年に雑誌のPOPEYEが大きなリニューアルを決行し、ラグジュアリースタイルだったそれまでから、シティー・ボーイを提唱し始めたことがキッカケだったと思う。

ファッションアイテムに"質実剛健"という言葉が多く使われるようになったのもこの頃からのような気もするが、質実剛健な洋服...老舗ブランドの、モノも値段も格別なものを、ハタチそこそこのボーイが惜しみなく買っていく。靴だったら若い子が10万超えのオールデンを履いているのも見慣れてしまったくらいだし、new balanceのUSAなんて恰好の的だったわけだ。

 

それで、一番売れていたのがM1400

あれは1985年のM1300の後、技術上量産不可で企画倒れしたモデルを、1994年に日本のファンの要望でまず日本での発売に至ったという経緯がある。流れとしてはM1300の後、1989年にM1500が発売されているが、ハイテクよりなデザインになりNマークが小さくなったことと、ラストが細身だったことで日本のファンからは不評だった。とはいえM1500はアメリカでもデザイン面で不評だったようで、最終的にはワゴンで投げ売りされていたらしい。伝説のM1300の後継品番に、ふさわしいモデルとして日本人に合うSL-2ラストのゆったりした作りのM1400はぴったりの存在で、1994年に復活販売された、という流れだ。

この当時に発売を望んでいた世代は2012年頃で言うと、40代から50代になるだろうから、トレンドを動かす力のある世代になっていると考えると、M1400の発売から約20年後にシティーボーイのマストアイテムとして脚光を浴びているのも辻褄が合うような気がする。

Beginが2012年の10月号で『オールデンVSニューバランス』なんて企画をやってたのも印象的。もちろん表紙はM1400

 

 

どこか1400への手放しの価値観が蔓延していたような気がする。みんながみんな、1400を試着するなり悩みを持ち帰りもせず買っていく。

ただのステータスみたいな言い方になってしまっているが、履き心地の素晴らしさは格別で、当時初めてゲットした時には先輩に『まるで毛布に包まれているような足あたりだ』とラルフローレンになりきって感想を伝えた。

 

ャケット×スラックス×new balance

次に話したいのは、前項のシティーボーイスタイル全盛の時代にバッチリハマったアイテム。

new balance USAの大ブームの2012年に発売した名作、M990 V3だ。

少し前の2010年に、M1300の5回目の完全復刻が発売され、すでに盛り上がりを見せていたnew balanceだが、シティーボーイスタイルでM1400が人気を博し、さらにブーストをかけるように、名作M993のアップデートとしてM990 V3は発売された。

2020年現在、"M990"とナンバリングされるモデルが5つあるが、2020年現行のM990 V5のデザインのベースは、このV3から始まっている。

2006年のM992まではヒールクッション部分の厚さ・デザインにとにかくボリュームがあり、スタイリッシュとは言えなかった。視覚的ハイテク感が頭打ちになった時期だと考える。

 

M993になると、素材の進化により衝撃吸収だけでなく衝撃を分散させることが可能になり、ミッドソールの厚みを押さえつつも、クッショニング性能は上がり、かつ軽量になった。

当時はランニング界でもソールの薄さとは大きなテーマになっていて、2009年に4mmオフセットのサッカニー KINVARAがデビューしたりと、ソールは厚ければいいわけでないという試行錯誤が一番行われていた時期だ。2010年代に入ると"ナチュラルラン"や"ベアフットトレーニング"などがブームになったのも印象的だった。new balanceでは996のデザインにベアフットラインのミニマスをハイブリッドしたML72なんてモデルもラインナップされていた。

 

アッパーデザインはM992ですでに完成されたが、さらにミッドソールは厚すぎず薄すぎず、ミリタリーラストのようなスタイル、発色の良いスウェードで、2008年発売のM993はnew balanceのフラッグシップラインの分岐点になったモデルだと言える。

 

そして2012発売のM990 V3は、M993の正統なアップデートとしてデビューした。

2000年以降になり900番代シリーズも、本格的にハイテクランニングシューズの枠を飛び出していく。それはラグジュアリースニーカー。それも最新の技術を盛り込んだ、車に例えればフラッグシップセダン、グランドツーリングという確固たる地位である。

このM990 V3から現行のV5まで大きなアップデートはされておらず、いかにV3が完成された"スニーカー"だったか、改めて実感する。

当時これを記念してnew balanceで初めて"ブランドブック"が発売され、徹底してM990 V3がプロモーションされていた。ちなみにブランドブックの価格は税込み"990円"だった。

 

M993からの900番代が普遍的と言える一つの大きな存在位置は、他のブランドのスニーカーが持たないフォーマルの中に、"はずし"で落とし込めるスニーカーだということ。2008年発売のM993からユナイテッドアローズの栗野宏文さんに代表されるようにジャケット×スラックス×new balanceというスタイルが定着し始め、2012年頃のトラッドスタイルを着崩すシティーボーイスタイルにも大共鳴し、真っ只中にデビューしたM990 V3は、この時代のアイコンとなった。

 

現在のM993,M992の復刻がやたらプレ値がつくのもこの頃に根付いた普遍的なデザインの使いやすさと機能美を覚えているファンが多いからだろう。

M990 V3が復刻される日は来るのだろうか。正直、M15009やM9919がリリースされた時は、990 V3のソールが使えることに、ヤキモキした。いやM990 V3作れるんじゃないの?って。

 

 

ちなみに当時のプロパー価格は¥23,100だった。今だったら即買いどころの騒ぎじゃない。M996なんて¥19,000の消費税5%だった...

 

 

M995という脇役

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手に入れてから3年目のM995という脇役

2018年頃、M996が一時生産終了し、代わりにM995が復刻し様々なショップに姿を表した。M995というナンバリングに馴染みが無い人も多いと思うが、なんせ初復刻である。時代のせいか、さほど話題にはならず、未だにひっそりとセール価格で出回っていたりする。(2020.8現在)

 

M996登場の2年前、1986年にデビューしたこのモデルは、そのM996の存在感に埋もれてしまっているが、ファンからすると結構グッとくるポイントが多い。

M996と言えばSL-1というラストが採用されたことにより、細身かつスタイリッシュな"形の良さ"で900番台の優秀さを決定づけたことが大きい。

対してM995はM1400に近いが横から見ると爪先のふっくらとした印象はM576っぽく、少しボリューミーだ。M996よりも、ここ何年かのパンツもトップスも大きめのサイズ感な時代にマッチするのかな、と個人的には思う。

かかとのライニング、内側の生地が革なのもいい。new balanceはソールが減りにくいしアッパーも持ちがいい。言っちゃえばオフィシャルでソール交換もできる。

なのにかかと部分のライニングがダメになると、どうも履けても気分が上がらない。

革なのでかかとがスルスルと動きやすいが、耐久性を考えるとありがたいポイントだ。

アウトソールはビブラム、カラーもMADE IN USAのグレイと識別できる色感、そしてミッドソールはC-CAP(圧縮版EVA・耐久性◎)というファン心くすぐる、すごく気に入ったモデルで、900番台でもうM996を買うことは無いな...と思わせた一足だった。

2018年と言えばNIKE,adidasなどのプレミアアイテム大時代なので、ひっそりと...という印象があるモデルだが、見逃すのはもったいないモデルM995。

 

さて、結局3つのモデルを語るだけでも5000文字に到達しそうで、キリがなくなるので次のことは、いつかまた書くとして、本稿は終わりとする。

ボストンという町、MADE IN USA議論、タンナーの話、あらゆる角度からもっと追求した記事を書くときに、もう何個かモデルを紹介したい。