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三浦大知 『Backwards 』は布石になるか?批評・レビュー・評価

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ファンでも何でも無いけど、この人のパフォーマンスは本物だと思っていて新譜が出ると何となく聞きに行ってしまう。

J-POPがガラパゴス化しているだとか、閉鎖的で進化・変化を拒んでいるだとか、そんなのは純然たる事実で語り尽くされている。音楽業界の内情は長い歴史や利害関係で複雑かつ閉鎖的かつビジネス的に内側と外側に境界線が強く引かれて、知れば知るほどに、変化を求めることがバカバカしくなってくるのがJ-POPである。

とは言え少なからず、『あれ、本物だ』と言いたくなるようなアーティストもいる。古くからのおじさんUK,USロックファンもJAZZミュージシャンも、ライブハウスの店長も、博識高い批評家も、そういうアーティストをJ-POPと括れるカテゴリーの中で出会うことがある。

 

三浦大知のBackwardはEPとして4曲入りだ。

01. Backwards
02. About You
03. Spacewalk
04. Didn't Know

 

01については、どことなくゲームミュージック的なニュアンスを感じるバッキングとコード進行とアルペジエーター。これ多分それこそ30代から50代ぐらいの世代には懐かしく聞こえてくる。グラディウス、インベーダー、ラストハルマゲドンとか。もうちょっとそれっぽく言えば、クラシックなシンセミュージック、テクノポップとか、つまりYellow Magic Orchestraの土台を思いっきり使ったトラックである。

これを現在進行形でやろうとするとチープになるものだが、ロックに近い音色のドラムと三浦大知のパフォーマンスの高いヴォーカルがマッチするとこうも聴きやすい曲になるのかと、むしろ若い世代にはこのシンセのアルペジエーター的なフレーズが近未来的に聞こえるのかなと考えたりもする。

 

 

02は、ベースとして2000年代の日本のR&B的である。CHEMISTRYとかクリスタルケイとかそういう方向性だ。4あたりのギターソロは結構上手い大学生みたいなひねりのないものになっているが、これは人選が悪いのか?これを弾いた人物がStave lukatherのLicksを応用しているのだけは強く伝わる。

 

03が超当たり曲だろう。イントロはmoonchild的な淡くてアタックの弱いシンセ。リズムトLoラックはlo-fi的に聞こえるがさほどズレ感(post J Dilla)は無くアンダーソン・パークのようなスタイルのグルーブを目指しているように聞こえる。特に『Lockdown』という曲がかなり近いニュアンスである。ブランストン・クックの『Shooting Star』やDaniel Caesarの『Get You』などもアイディアの源流としては近いと思う。

そして三浦大知の“取り残されたみたいだ” “時のすきま” などで聞ける文末の音符の切り方に注目しておきたい。やはり楽器を極めれば極めるほど、そしてジャズやブラックミュージックを聴き漁れば聴きあさるほど、『休符』というものはいかにグルーブとして重要な要素であるか理解が深まる。

音楽はリズム・メロディー・コードという音楽三代要素があるが、全てに共通して緊張と緩和がある。リズムの休符を使って緊張感を出すのは常套手段であるが、解決=緩和があってこそ成立する。パッと音を切ると緊張状態が一瞬埋まれ、次の音符が鳴るのを聞いている側は待つ。次の音が鳴って緩和だからだ。

例えばラストサビで盛り上がるぞという時にサビの頭でバンドごとブレイク(無音)してヴォーカルだけになる。1拍か1小節か置いて、ドーン! と、バンドイン、みたいのはよく“頭抜き”なんて言われていて大サビを盛り上げるのによく使われる手法があるがこれも緊張と緩和を大胆に利用したものだ。

この場合のようにジャブみたいに軽く打ってくるパターン、是非同じように歌ってみて欲しいが、必ず体が揺れるはずだ。リズムについて理解の深いアーティストだな思える片鱗が見える瞬間である。

 

04はユーロビートなトラックだ。曲の構成自体かなりダンス前提になっており、音源を聞くだけではあまりノレない。しかしライブを見たら、これが一番の推し曲に様変わりしそうなトラックだ。おそらく現時点では03の支持が厚いと思うが、コロナ禍からの全世界復活の世界線のリードトラックとして捉えたら、激アツなライブを想像させてくれる。

 

 

総評して、全く収束の見通しが立たない社会状況の中でバカ明るいアルバムはなかなか出てこないし受け入れられない。トレンドとは流行りではなく、消費者の心理状態から生まれるものだ。割とネガティブワードが多様される曲が増え、音楽業界的にもネガティブな発信や心苦しい発表の連続である。少なくともこの『Backwards』は現状に絶望したり悲観したりするよりも、すっかり枯渇してしまったあの一体感を取り戻すための布石である。