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『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』批評・レビュー・ネタバレ・評論

 

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低予算ストリートレーサーモノとしてスタートした本シリーズも、スピンオフを含め10作目のワイルド・スピード/ジェットブレイク』。4作目以降、奇跡的なV字回復を見せ、巨大なドル箱フランチャイズとなったが、その弊害も多い。

 

大味映画スケールアップのインフレ化による宇宙到達

シリーズは作品を重ねるごとにスケールUPが求められてしまう。ロサンゼルスのストリートギャングから州を超え、国境を超え、東京、ロンドン、リオ、キューバ。海中、空、氷床。キャストも豪快に予算も派手に、そして最終的に行き着くところは宇宙になるのだ。007のムーンレイカーがスケールアップのインフレ化で宇宙に行き着き失敗したように、実は繰り返される失敗の道筋なのである。

ワイルドスピードファンのみならず、映画ファンはワイルドスピードスカイミッション以降何を生み出せるか、不安を感じていたはずだ。アイスブレイクで嫌な予感は現実味を帯び、ヴィン・ディーゼルドウェイン・ジョンソンの不仲、スピンオフのメイン・サーガに全く敬意の無い『スーパーコンボ』などぐだぐだが続き、『ジェットブレイク』である。

 

車に愛が無くなったか?

ストリートレーサーというジャンルものが出発点である本シリーズは多くの車好きたちの力を借りてここまできた。1作目のレース会場や、2作目の倉庫から大量のカスタムカーが雪崩れ出てくるシーンも一般のカスタムカー乗りの協力のもの撮影されている。

ブライアンがGT-Rスープラ、ドムがダッヂ・チャージャーというお約束はもちろんのことあらゆる場面で車とキャラクターへの愛があった。

例えば、『ユーロミッション』で記憶を失いイギリスの傭兵グループに入っていたレティが乗っていたジェンセン・インターセプター。この車はイギリス車であるが、エンジンはアメリカ・クライスラー社製である。ロサンゼルスでドムと一緒に過ごしてきた本当の内側の部分と、記憶を失いイギリスの傭兵チームにいる外側の部分をリンクさせたチョイスで本当に車が好きな人が選んでるんだろうなと感じさせてくれた。

MEGA MAX』でダッヂ・チャージャー2台で金庫を引っ張り出す時のホイールスピンする描写であったり、リオでハコスカに乗るブライアン、そして白いスープラ

 

『ジェットブレイク』では車のチョイスに深さや面白さがいまいち無いのだ。唯一、ハンが復活することによりVeilSideカラーの新型スープラのショットはそれらしかったが、実際ほとんど運転せず、使い方としてはジョン・シナの方が目立ってしまっていてテンションもただ下がりである。

少なくとも『アイスブレイク』ではローマンがランボルギーニに乗っていたことを覚えているし、ロンドンのダッヂ・チャージャーデイトナは最高にクールだったし、デッカードショウのジャガーFタイプやマセラティ・ギブリなんかも記憶に強く残っている。

本当に『ジェットブレイク』では車が記憶に残らない。

 

美談で持っていこうとするな

“席が一つ空いている”みたなのでGT-Rが到着して、わぁブライアン!ってなるが、それで終わり良し!は良くないだろう。このシリーズにはファンも大切にしているシーンやプロットがある。鍵を渡すシーンもそうだ。なんとか盛り上げるために過去の財産を簡単に消費していくのはファンとして悲しい。

スカイミッションが映画シリーズに対して、そしてポール・ウォーカーに対してこれ以上ないほど愛のある素晴らしい着地をしたのを忘れることはない。だからこそ、今作にはシリーズに対する愛はあるのか?と疑問を持たずにいられない。

ドムの象徴的アイテムである十字架のネックレス、あれを若き日の全然似ても似つかないトレッド兄弟が二人で首からぶら下げている単純さと滑稽さは、なんだか厨二病的演出にも感じる。

 

兄弟はどうなの?

ジョン・シナが弟っていうのも、そもそも兄弟ってのも飲み込みづらい。さらに10代だったころの兄弟なんて役者がどっちがどっちにも似てなくてわけがわからん。なのでこの兄弟ドラマは本当に感情移入できないし、それが話の唯一の推進力だから致命的欠陥である。

 

 

いらない人物多すぎないか?

ラムジーの活躍がほとんどなかったし、ミスター・ノーバディなんて何のために出てくんのよって、それでギャラいくらよって言いたくなるし、さすがにショーン・ボズウェルは可哀想だ。30歳のアメリカ人が日本の高校生役ってだけで無茶苦茶だったのに、今回はどういう経緯で行き着いたのか髭面のオタクになっていて、集客用の出演にしか思えない。ミアもそうだし、もう全員メリハリがなく活躍できていない。

さらに宇宙ミッションのありえなさが、さらにこの映画何のために見ているんだろう?感が強くなってきて悲しくなる。やっていることはコメディそのものなんだけど、それより地上で車がカッコよく走りアクションするほうが見たいのがワイルドスピードなんじゃないかと思う。

 

本当にファン

一作目のころはまだ小学生だった自分は、VHSで死ぬほど見ていた。それから新作が公開されるたび、映画館に通い誰にも負けないと言いたいほどファンである。

もしかしたらドウェイン・ジョンソンヴィン・ディーゼルに言ったことは正しかったのか?そんなふうに思えてくる。二人の和解は不可欠か?はたまたジェームズ・ワン監督のカムバックが必要か?もうシリーズファンや映画ファンは騙せなくなってしまっているぞ。

 

細かいことよりもテーマは

気になるところがあるし、好きな作品は人それぞれ。今回はどうしても面白いと言い切れなかった人も自分のような人もいる。ただ、それでも一つだけシリーズには一貫したテーマがあり、今回も例外なく守られている。

それは車は最強!ってことだ。戦車にも勝てる、原子力潜水艦にも勝てる、空も飛べる、宇宙にも行ける。宙を舞った人をキャッチして助けることもできるし、ヘリコプターを体当たりで撃墜もできる。

ワイルドスピードという映画は車が最強であることが一番のテーマでありコンセプト。それを毎回毎回ポップコーン食べながら楽しむ、とやかく言わず、それでいいのかもしれない。ただ、それでよくなってしまったなと、嘆くファンもいるのも事実である。