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GEL-NYCと非ヒップなasicsの動きを考察

売上高4.3兆円のNIKE、2.8兆円のADIDASは世界のアスレティックブランドTOP2であり、市場を食い荒らしている。その残り物を取り合ってきた多くの世界的アステレィックブランドの中でも、new balanceやsalomonのようなパフォーマンス志向のブランドがスニーカーの話題の中心になることが多くなってきた。2000年代のメッシュで機能的なパーツが配置されたシルバースニーカー(Y2K)の流行も拡大し続け、まさにASICSこそアーカイヴの宝庫ではないかと思えるが、そこまで目立つ動きはない。やはりASICSのパフォーマンスランニングシューズブランドであるという姿勢は硬く、ここ数年は厚底ランニングシューズ戦国時代にNIKEに完敗した屈辱を晴らそうと取り組んでいる。2015年頃にASICSは米国での販売戦略の方向転換に大失敗し、ブランドの輝きを失った。そういった過去の教訓、ブランドを成長させてきたランニングカテゴリーをおざなりにしてハイプ商品に取り組むことなどしない。しかし、今回のGEL-NYCのように、ゆっくりとエスカレーターのようにファッション領域にASICSが挑んでいることも事実なのである。実際のところカルト的な人気を誇るインディーブランドのルックブックやアートディレクターの足元など、世界的なファッションアイコンがASICSをライフスタイルスニーカーとしてピックアップしていることも見逃せない。近年のアシックスの象徴的なコラボレーションモデルとともに流れを考察してきたい。

Vivienne Westwood・COMME des GARÇONS

KITHやアトモス、Pattaなどのコラボレーションはそれまでにリリースされていたが、流れ、あるいは決意みたいなものが大きく変わったのが2019年KIKO KOSTADINOV(キコ・コスタディノフ)との関係が始まった頃である。6作のモデルをリリースし、その後もVivienne Westwood・COMME des GARÇONSなどのビックネームコラボも実現した。2018年頃からはハイプなアイテムの全盛期で、抽選・並び・転売・プレ値・セグメントが一気に加速した時期でもある。実際のところ、パフォーマンスカテゴリーに注力するasicsにとって、ブランド全体が大きくそちら側に舵取りすることはブランド理念としても一致しないことだからnikeadidasに埋もれていたことは否めない。それでもいくらか上品で、生活水準とファッション感度が高い層にマッチしているデザイン性は確実の現在のasicsのポジションに繋がっている。

Vivienne Westwood HyperGEL-LYTE

COMME des GARÇONS SHIRT×ASICS JAPAN S/OC Runner

KIKO KOSTADINOV(キコ・コスタディノフ) 

それまでのキコ・コスタディノフとのコラボレーションを終了した、次の動きは正式なパートナーシップ契約だった。ミニマルで洗練されアート性も富んだブルガリア出身の気鋭デザイナーであるキコ・コスタディノフは学生時代にステューシーのデザインからデザインの依頼を受け一躍有名になった。2016年に自身のブランドを立ち上げるがわず3年で世界的デザイナーとして認知されている。ASICSはそれまでにもデザイナーとのコラボレーションは行ってきたが、外部デザイナーとのコラボレーションに区切りをつけ新たなデザインチームを立ち上げキコ・コスタディノフとパートナーシップを締結した。

KIKO KOSTADINOV × ASICS UB1-S GEL-KAYANO 14 4COLORS

パートナーシップ締結後の初のモデルはGEL-KAYANO。“カヤノ”と言えば1993年に初登場したASICSで最も知名度のあるランニングシューズである。デザイナーの榧野俊一氏のから取られたスタイルネームは、これまではランニングユーザーのほうが認知度が高かったであろう。当該モデルは2008年に発売された14代目。2020年11月に発売され、ライフスタイルに落とし込まれた絶妙なカラーリングとまさに拡大するシルバースニーカースタイルである。ASICSの歴史は長いが、榧野俊一氏と言えばASICSのここ30年の歴史を作ってきた重要人物である故に、榧野俊一氏の処女作をベースにしたインラインモデルなども発売されている。

 

榧野俊一処女作GEL-EXTREMEベースのEX89

2022年にはNikeでもプレミアコラボを実現してきたJJJJoundともGEL-KAYANO 14をピックアップしている。NIKEが95やdunk、adidasがSS、NBが993や2002であるならば、ASICSの最重要アーカイブはKAYANO14である。

JJJJound x ASICS GEL-KAYANO 14

Brain Dead

LA発のクリエイティブ集団、"BRAIN DEAD(ブレイン デッド)"とキコ・コスタディノフとのトリプルーネームが発表された。2021年8月に120足限定だったゲルフラテッリは左右非対称、異素材のかなりインパクトのある一足だ。関わるデザイナー、そしてこういった一足もASICSがこれからどんなプランがあるか、ひしひしと伝わってくる。こういったアート性の高い作品的な意思表示は、今後多くのコラボレーションを生む道標になっていた。

Kiko Kostadinov×Brain Dead×ASICS GEL-FRATELLI(ゲルフラテッリ)

 

BRAIN DEAD × ASICS TRABUCO MAX "ORGANIC CHAOS DESIGN"

2021年ブレインデッドと2社で実現したトラブーコ MAX。肉厚なソールにゴテゴテしたアウトドアライクなスタイルはそもそもトレイルランニングである。本来はランニングらしい蛍光色などが多いが、ALL BLACKのインラインモデルが注目を集めていた。HOKA/SALOMON/MERREL/ACGなどを彷彿とするスタイルは新しいものを探しているニッチなスニーカーコアファンのターゲットだった。もちろん、トラブーコをファッションアイテムとして視野に入れている層はBRAIN DEAD × ASICS TRABUCO MAXを知らないわけがない。

 

ASICS GEL-NIMBUS 9

 

Brain Dead x ASICS GEL-NIMBUS 9

2023年のBRAIN DEAD×GEL NIMBUS 9は“ゲル・ニンバス”がASICSアーカイブのアイコンモデルの一つであることを明確にしたと言える。2007年発売された同モデルは高機能ランニングシューズとしてデビューしたが、そのデザイン性はまさにヴィンテージスニーカーの再評価の流れにぴったりだ。NYのヴィンテージストア「Procell」の設立者ジェシカ・ゴンサルベスや熊谷隆志"氏のWIND AND SEAなどにフックアップされている。

2022 Jessica Gonsalves×GEL-NIMBUS 9

2022 WIND AND SEA × ASICS GEL-NIMBUS 9

 

 

GEL-NYC

new balanceのテディ・サンティスが550をフックアップし成功を収めた後に、2010年のM2002の準復刻としてリリースされた2002シリーズのように、ソールスワップアーカイブデザインのマッシュアップはベターな流れだ。GEL-NYCというスタイルネームだけで唆られるが、主に3つのアーカイブマッシュアップしたGEL-NYCはかなり完成度の高いデザインでスポーツスタイルミックス、シルバースニーカー、トレイルミックス、あらゆるスタイルをデザインできそうである。

GEL-NYC(エヌワイシー)

インラインとして発売されているが完売はかなり早い。そもそも流通足数もNIKEやNBと比べると少ないだろうが、抽選はされず手に入りにくいが、情報を把握していれば苦労はせず変える、楽しい領域である。アッパーのデザインのベースはGEL-NIMBUS 3でさらに2021 GEL-MC PLUS Vのパーツを追加している。

2001 GEL-NIMBUS 3

2000年代初頭に登場したGEL-NIMBUS 3をデザインのベースとして、2021年に登場のGEL-MC PLUS Vのカラーや素材などのさまざまな要素を組み込み、ASICSアーカイブの象徴的な特徴を受け継いでいる。

 

2021 GEL-MC PLUS V

ソールは2014 GEL-CUMULUS 16をスワッピング。選定されたソールは、new balanceの2002に採用された860 V2とかなりデザインが近い。確実に意識があったように感じるが、完成したNYCはまたそれとは違う、着地感のあるデザインでアーバンスタイルにマッチしそうである。実際に履いた感触は、まさに2000年代ランニングといった履き心地でnew balanceと遜色ない。アーチが控えめだからこそ落ち着きがあり、高所得感のあるデザインである。

2014 GEL-CUMULUS 16

こうしてASICSも、パフォーマンスカテゴリーには伝統を守り注力していく一方、ライフスタイルカテゴリーでは戦略的に、でもゆっくりと認知を拡大しているように見える。ここ1年での話題性や注目度は高く、いつ爆発的にヒップなブランド化してもおかしくないポテンシャルだ。