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Netflix『グレイマン』スパイ映画市場への参入ジェームズボンド×ジェイソンボーン 考察・解説・レビュー・ネタバレ

ブレードランナーVSキャンプテンアメリカ??お金がかかりそうだ!Netflix史上、最大規模の制作費らしい。その額2億ドル。200億円、やばいなと思ったそこのあなた!300億2600万円です。円安も去年11月以来の水準に進行し1ドル150円台(2024/2/16)。こんな大味アクション映画について考えている場合ではないのでは...頭の中にひび割れた岩みたいなフォントで増税・物価高・賃金安などの文字がドカーンと降ってくるが、そういうやるせない気持ちも一時的処置として吹っ飛ばしてくれるのが、こんな大味アクション映画である。何か現実に引き戻される感覚があるので、できれば金の話はしないでもらいたいが、Netflixも、なにもお祭りパーティーで最大制作費ってわけでもない。とてつもない勢いで会員を増やし、2020年には会員数が2億人を突破し騒がれていたのも記憶に新しいが、2023年には加入者数の頭打ちと利益低迷を迎えている。広くコンテンツを増やしていた戦略から舵を切り、一流の俳優を揃え高額予算の作品に注力し、その代わりにリリースするプロジェクト数を減らしていて、つまり『グレイマン』はその象徴的な作品でもあるわけだ。その予算の莫大さは誰が見てもわかるほど贅沢な絵が続き、ルッソ兄弟(監督)がアベンジャーズシリーズで培ったアクションの魅せ方は遺憾なく発揮されていて、効果的なドローン撮影も印象深い。メルセデスベンツのGクラス(ゲレンデが)が何台も壊されていたのは、ここにも予算の集約がされているような気がすると車好きは思ったかもしれない。破壊台数で箔を付けるために、20年型遅れのFORDエクスプローラーとか壊されまくる光景は見慣れているからだ。プロットはCIAにより雇われた元囚人のヒットマンと組織の腐敗との対立構造。全く革新的でもないが、フォーマットとして提示するには十分だろう。どう考えたって大分類は007を意識していないわけがないし、象徴的な赤いAUDIも007で言うアストンマーチン的なものだ。AUDIのジャパンプレスを読んでも、やっぱりそういう象徴的な車としてブランディングしていく会議が行われたんだろうなと感じる(想像)。

Audi RS e-tron GT

そういう目線で見ていくと、シックス(ライアン・ゴズリング)が付けているタグ・ホイヤーのカレラが気になったり、クリス・エヴァンスはマッチョしか着れないking & tuckfieldのニットポロを教科書的な着こなしをしている。お酒好きで知らない人はいないジェームズ・ボンドのボンドマティーニや、スーツに造詣が深ければ直近007のダニエル・クレイグが着こなすTOM FORDのスーツなどを例にとって、『グレイマン』もこれからシリーズ化していくフランチャイズの中で、映画キャラクターというインフルエンサー的な立ち位置を確率していくのだろう。冒頭の暗殺では、誰もがおかしいと思ったはずだ。なぜヒットマンが赤いスーツを着ているのか。どこか(映画の外)でライアン・ゴズリングが現れた時、赤いスーツさえ消えていれば彼がシックスだとわかることには大きな意味がある。

TAG HEUER カレラを身につけた"シエラ・シックス"

 

クリスエヴァンスのKing & Tuckfieldニットポロ。マッチョで胸板が暑く無いと着れない


と、ここまで何度もジェームズ・ボンドの名を比較として挙げて、スタイルに言及し何が言いたいかと言えば、つまりルッソ兄弟はこの市場に新たなスパイヒーローを誕生させたいということだ。その"市場"とは『007シリーズ』『ミッション:インポッシブル』『ボーンシリーズ』という3の巨大なシリーズに独占されてきたスパイアクションスリラーへの参入だ。シエラ・シックスのアクションスタイルはボンドのような洗練さを持ちながらも、ジェイソン・ボーンシリーズのような暴力性も垣間見える。とはいえジェームズ・ボンドのような戦闘中でも上流階級を感じるようなスタイルを取り入れることにはリスクがあるのか、その代わりにルッソ兄弟アベンジャーズで行ってきた混沌とした大乱闘がある。一言でざっくり言えばボンド×ボーン=シエラ・シックスという新しいスパイヒーローなのではないか?個人的にはそうとしか感じない。だからこそ話が薄いとかそういう批判は正直どうでもよくて、プロットに関してはとりあえずフォーマットのベースが提示できていれば良いのではないか。スパイアクションとしてどのようなスタイルか。この映画にグッとくる人は、あらゆるアクションスリラーを大量に観賞してきてそんなことを思うはずだ。

ジェームズ・ボンド

ジェイソン・ボーン