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ヘレディタリー/継承 考察・解説・レビュー・ネタバレ

Hereditary(2018)

 

今や日本でも認知が広がりブランド化してきている配給会社"A24"が2018年に劇場公開した映画『ヘレディタリー/継承』。"21世紀ホラーの頂点" “ホラー映画過去50年で最高傑作”などと高い評価を得ている。監督はアリ・アスター、この映画が長編デビューというのが驚きである。この作品を超えていくには監督して茨の道かと思えたが、その後も『ミッドサマー』で高い評価を得ている。アリ・アスター監督のホラーへの造詣の深さは凄まじく、学生時代は"行ける範囲のビデオ店の、“ホラー棚にある全ての作品を片っ端からみた"と語っている。そういったバックグラウンドを持つ監督だからこそ、その豊富すぎるホラー映画的語彙を、なおかつ新しいものとして展開し、あらゆる人の“あらゆるトラウマ”を刺激するのだろう。

影響があると感じるシーンを抜粋する。ドールハウスアーティストという設定の妻のアニー。冒頭からドールハウスにゆっくりと写し現実世界とリンクした不思議な演出で物語が始まるが、スタンリーキューブリックの『シャイニング』のオマージュと思える。外から監視され、コントロールさているという意識を観客に植え付けることに効果的だ。また亡くなった祖母が現れるシーンや、光のフレアのようなJホラー的表現も見られる。宗教的価値観からもアメリカでは"悪魔"のほうが敵として描かれることが多く、アメリカ映画で幽霊的表現は稀だが、しっかりと霊的な恐怖感を演出している。現れるが何をしてくるわけでもない祖母の幽霊は、何がしたいのか釈然としない得体の知れない恐怖感である。さらに暗闇に、見えはしないが何かいるような気がするという表現もところどころ現れる。暗闇というよりは"黒い"である。見えないが黒い何かがあるような気がするのは、自分の身に置き換えれば結構深刻な恐怖ではないだろうか。こちらもJホラー的だと感じる。最後にピーターを追いかけるアニーが天井裏の入り口に頭を何度も打ち付けるシーンと、首が吊られた状態で、自らの首を刃物で刺しまくるシーン。これはエクソシスト的すぎて非常に怖い。小学生の時にエクソシストを事故鑑賞してトラウマになった自分としては最も怖いシーンであった。その他にも映画全体として『回転』や『ローズマリーの赤ちゃん』などが参考なっていると監督は語っている。

全体的にはホームドラマ的な家族の話であるが、そこに血族という呪い、家庭という閉ざされた牢獄的なホラー表現がミックスされる。鑑賞後こそ"呪い"とか"閉ざされた"とかいう言葉がしっくりくるのだが、見ている間は「一体何を見せられているんだ...?」という気持ちになる。これは幽霊なのか?悪魔に取り憑かれているのか?統合失調症のような病気なのか?誰が被害者なのか?いつどこへ話が飛ばされるかわからないが、ずっと怖い。効果的な音響効果は言うまでもなく恐怖を煽り、舌で上顎を鳴らす音、目に反射する赤い光は不吉な何かを感じさせ、まるで自分がこの世界に入り神経が研ぎ澄まされたかのように「何かいるような気がする」「何かが起きる気がする」とこの映画はあらゆる細かな演出で没入させてくる。