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Netflix『ザ・ギルティ(The Guilty)』解説・ネタバレ・批評・レビュー

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『The Guilty(2021/Netflix)』は2018年の同名デンマーク映画のリメイクである。もともとオリジナルの『The Guilty(2018)』が斬新な技法として高く評価されたのは、『音だけで誘拐事件を把握する』という設定に乗っかり、展開していく出来事をそのまま信じていくと、いつのまにか観客は足下を救われる——という、ある意味、叙述トリック的な仕掛けにあった。日本では“カメラを止めるな!に続く新感覚映画”などと宣伝されたが大きな話題にはなっていない。オールタイムベストには残らないが、そこそこ楽しめた映画というくらいが打倒かもしれない。

同様のサブスリラージャンル古典的映画としてフォーン・ブース(2002)』や『オン・ザ・ハイウェイその夜86分(2013)』などが挙げられるが、これらに比べ『The Guilty(2018)』が特に斬新というわけでも無かった。しかし、同じ絵、電話のみという斬新でありながら大きな弱点を、明快さとテンポの良さ、そして誘拐事件というアイディアで見事にクリアしていた。

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リメイク映画の良し悪しは、リメイクが行われるべきだった理由をまず検討することだ。『The Guilty(2021/Netflix)』の致命的な欠陥はまさに、これに尽きる。オリジナル、デンマーク版では見られなかった、明確なビジョンは無いのだ。また、一人の役者、一つの場所だけに焦点を当てる場合、非の打ちどころないサウンドメイクが必要不可欠である。耳鳴り、心臓の鼓動など——しかし、これをなるべく排除した、ようにも受け取れるのは、ジェイクの悲痛な表情や叫びにその役割を与えたからなのか。例えば無表情に耳鳴りというシーンがあったとする——いま彼は何を思っているか?感じているか?監督は、それを読み取れるという観客への信頼が無かったと言わざる終えない。

さらに主人公は過去に何をしたか?——これはアメリカの重大なトピックである警察の残虐行為であることがわかる。内包された社会的メッセージを取り扱うための十分な時間が与えられていないことにも、疑問が残る。電話で事件に介入していくことはルールを度外視した行為、しかしそこには誰かを救うための本能的行動がある。それと、過去の過ち。それらを対比したときに、観客は彼をどう見るのか。そういった問いかけを行うためのベースはあるのに、行われない。即物的なスリラーから途端に道徳的になるだけの平凡な作品となってしまっているのである。

つまりリメイクが行われるべき理由とは、“それ”だったはず。アメリカ映画として何を問うか?もっと言えば、誰かを救おうとすることと、過去の過ちの対比——それが一人の人間であるという複雑さの先に白黒つけない道徳的解釈があるのではないか?

ちなみに、そのような映画表現については、『クラッシュ(2005)』マット・ディロンタンディ・ニュートンのエピソードが超秀逸である。

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そして、白紙の状態で生まれた作品であるならまだしも、リメイクだから遥かに劣った作品と評価されてしまうのは致し方ない。

しかしながら、さすがのジェイク、パフォーマンスは素晴らしい。

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『雨の日は会えない、晴れた日は君を思う(2015)』ナイトクローラー(2015)』に見れたような、内包する葛藤や不安定さを表現する虚な眼差しが良い。なんとか彼のパフォーマンスにより平均点くらいまで持ち上げているのは言うまでもない。ジェイク・ギレンホールでなかったら、なかなか見れた映画じゃないだろう。