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『Fast X』ワイルドスピード10、最終章の解説・考察(ネタバレ)

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2001年の1作目より20年以上にわたり世界を熱狂させてきたワイルドスピードの最終章となる10作目。当初は前後編の2部作の予定だったが、さらに拡大しなんと3部作になる。ドル箱フランチャイズとなったFFシリーズも潔く終わるには名残惜しいようで、引き伸ばし続けてここまできたが、それでもまだまだ続く。ある日、最終章の三部作のパート3は2部作です!その2部作の後編は二本立てです!間にスピンオフはさみます!なんて発表があっても驚かない。

 

 

ホブスとジゼル

早々にエンディングの話ですっ飛ばしすぎなのは結局このエンディングが本編を食いかけているからだ。FFシリーズがここまで成長してきた大きな戦略は“セルフ再結集”である。少ない予算とストリートカーレースというニッチなカテゴリーで大成功を収めたFF1のダブル主演はブライアンとドミニクだ。しかし続編の2はブライアンのみ。変わりにローマン・ピアースという男が登場し、FF3ではブライアンもドミニクも登場しない。FF4において過去シリーズ3作の登場人物が一堂に介し『なんかめっちゃアベンジャーズ感』の再結集という戦略で大ヒットしたのだ。そもそも、無名に違い俳優が多かった中、3まで意図せず(言い方を変えれば迷走しながら)歩んだシリーズの流れを巧妙に利用した再結集は観客の興味を強く引いた。この成功体験はFF10に至るまでストーリー作成の根本にあり続けていて、TOKYO DRIFTで死んだはずのハンの復活、ワイルドスピードMAXで死亡したと告げられたレティの復活どに見られる。つまり今回爆発に巻き込まれたジョン・シナ演じるジェイコブ・トレッドも同じ例である(言い切れる)はずで、残るシリーズ作で確実に登場するだろう。

5月19日に公開された『FAST X ファイナルブースト』。もちろん3部作ということでエンディングは壮大なクリフハンガーで終わるが、そこに登場するのはなんとドウェイン・ジョンソン演じるホブスとガル・ガドット演じるジゼルである。ジゼルと言えばユーロミッションで爆発に巻き込まれ死亡したはずで、パートナーだったハンはその悲しみからTOKYOに行ったはずだった。観客の私たちが忘れていたことがある。これはあくまでもワイルドスピードなんだという紛れもない時事実。つまり、生命活動が完全に停止したという描写がない限りは、生きていると考えた方がいいということである。何度も言うが再結集ビジネスなのだから。

しかし、こうやってシリーズを継続させるため、プロットにイベントを起こすために過去に終わったはずのストーリーラインやキャラクターをコールバックすると、最終章に向かうほど複雑になっていくのは否めない。しかし、許せる。なぜならワイルドスピードだからだ。誰がワイルドスピードに巧妙かつ筋の通ったプロットを期待しているのかという話である。

 

監督は『X3 TOKYO DRIFT』『MAX』『MEGA MAX』『EURO MISSION』を手がけたジャスティン・リン。そもそもワイルドスピードをここまでの巨大なフランチャイズに成長させたのはプロデューサーであるヴィン・ディーゼルジャスティン・リンのタッグにある。

ヴィン・ディーゼルが『X3 TOKYO DRIFT』のラストシーンにサプライズで出演した際、ジャスティン・リンは“プランがある”とヴィン・ディーゼルワイルドスピードの展開を持ちかけたことより始まっている。

その後2作のブランクを経て前作『ジェットブレイク』シリーズ監督復帰となるが、期待とは裏腹に評価のほどは今ひとつだった。アメリカ最大手の映画批評サイトではオーディエンスが59%、トップ批評家が82%という結果である。ドウェイン・ジョンソン同様のWWE出身ジョン・シナを新たなメンバーとして迎えるも、ドミニク・トレッドの弟という違和感、敵役として魅力はジェイソン・ステイサムを超えるに至らず。

さらに、“アクション系の映画はスケールアップを重ねてマンネリ化すると宇宙に行く”という通説(?)を地で行った荒唐無稽さは、さすがにありえないトンデモすぎる展開で気持ちが離れそうになる。しかし、“車こそ最強”という思想か理念か、それだけは確固たる意思で守られていることを再認識させられた。今回のFF10でも引き続き監督を務めるはずだったが途中で退任。公認はトランスポーターシリーズなどを手掛けたアクション映画のプロ、ルイス・レテリア。そう、今作がこれまでに比べてアクションシーンのボリュームがかなり多いと感じた観客も多いはずだ。あらゆる映画からサンプリングされたアクションアソートミックスのような仕上がりになっているのは、ルイス・レテリア監督による手腕だ。どういうことかというと、かなり早いペースでド派手なアクションがマシマシで盛り込まれているのが、これは乱雑に実行される強引なストーリーや脆弱性から観客の目を逸らすために他ならない。再結集と都合の良いファミリー化から観客。麻痺させるためにド派手なアクションをパンチドランク的に利用しているのだ。しかし、特筆すべき脆弱性が2つあることも事実。一つは、俳優同士が相互関係にあるはずのシーンで、明らかなグリーンバックがあったり、グループが一画面に収まることがめったにないことだ。別々に撮っても編集でどうにでもなるが、映画のテーマである“ファミリー”という概念はミュートされていく。2つめに3部作であることが発表され、様々なプロットポイントやキャラクターについて未解決のままが多い。それはクリフハンガーによる明らかな性質だが、結果それぞれのキャラクターが短い役割のみを担い、とくに新しいキャラクターは識別可能な個性を持つフルボディのキャラクターではなく、俳優認識のゲストスターのようにしか映らないのだ。

そういった観客が否定しうる脆弱性からなるべく目を逸らすために、ルイス・レテリエ監督アクションをハイペースに、爆音とド派手な演出で観客をドラッグ漬け状態にしていく。それなりに、どうにかはなっているが、観客の目は誤魔化せないだろう。唯一ルイス・レテリエ監督が賞賛を受けるべきなのは、舞台を宇宙から地上に戻したことである。

ちなみに、ジャスティン・リン監督は、退任した理由をヴィン・ディーゼルとの対立、書き換え、撮影場所の急激な変更などと主張している。

 

場外のエンタメ

ワイルドスピードシリーズの成長に大きく貢献したドウェイン・ジョンソンだが、最終章が制作発表された当初はこの最終章についても出演を否定していた。

FF8の『ICE BREAK』、スピンオフの『スーパーコンボ』あたりでヴィン・ディーゼルドウェイン・ジョンソンには対立が起きおり、この溝は深今と報道されていた。一度和解したようなアクションはあったものの、ドウェイン・ジョンソン自身が「ヴィン・ディーゼルには出演しないことを直接伝えた」と語っている。

しかし、FF10のエンディングでホブスが登場した時に、我々は重大な事実を思い出すこととなる。ホブス演じるドウェイン・ジョンソンアメリカ最大のプロレス団体、WWEのヒーローである。つまりアメリカ市場最もエンターテイメントな土俵で歴史を作ってきた人物。ヴィン・ディーゼルとの不仲説はもはやプロレスみたいなものだったのだ(?)。WWEでは場外や放送外のトラブルなんて日常茶飯事で、それはリング上で最高のエンターテイメントという形で消費されていく。ワイルドスピードでも、不仲→出演無し→最終章カムバック!こうなることは考えればわかっていたはずだ。何故なら、ワイルドスピードは“再結集”ビジネスなのだから。

 

まとめると、シリーズは再結集とファミリー化を乱用し、それを大豪遊アクションでパンチドランクする。聞こえが悪いが、シリーズ全体の興行収入は60億ドルに届こうとしているように、WWEプロレスの様に熱狂できてる最大規模のエンターテイメントがこれからも何処かへ橋を繋ごうとしているのは明らかだ。