スグループ

モノとポップカルチャー、それっぽく言ったりたまに爆ディス

『リム・オブ・ザ・ワールド』駄作だったで終わらせないでよ。解説・批評・レビュー

 

 

『金持ちの言葉だ、あんたは関係ない』

 

f:id:sugroup:20190601233320j:image

 

子供達が主人公なら外せないアイテムって言ったらやっぱり自転車。それは単なる小道具でなく、物語の中で子供達に与えられるエンパワーメントのメタファーである。ジョージ・A・ロメロが社会の混沌や人間の性を暗喩するゾンビというギミックを生み出したように、子供達がシュウィンのヴィンテージローライダーやBMX乗るのはスティーヴン・スピルバーグが生んだ子供達の自由のシンボルなのだ。

つまりどう考えたって『リム・オブ・ザ・ワールド』は現代版『グーニーズ』をやりたいのだろう。加えてマスタング・マッハ1やHIPHOPライクなadidasのセットアップなど様々なポップカルチャーを取り入れ幅広い層へのヒットを狙っている。

とはいえ同じNetflixオリジナルフィルムでこれより前に『ストレンジャー・シングス』という大傑作があるので、比べてしまえばこちらの評を下げたくなる気持ちもわかるのだけど、確かに中途半端なスピルバーグ感はあれどこんな子供達の冒険はやっぱりワクワクさせてくれるから温かい気持ちで見るのはどうだろう。

 

管理下に置かれた擬似的な冒険キャンプから、地球外生物の侵略が起きた途端に、子供達の目に移る世界が、一気にオープンワールド化する数分間なんて映画の中にまた一つ至福のひとときがあるとすればここです!と言いたい。冒険キャンプの場所「リムオブザワールド」がタイトルの割に舞台としては最初だけって感じがするが、ジュラシックパークライクな壮大な入り口に見せかけておいて、蓋をあければそこから一気にオープンワールド化するからワクワクがある。彼らが出会えた場所だしそれだけでタイトルとして文句は無いのだけど。ジェンジェンがいつまでもパンフレットを持っていることに深さは感じないが。

そもそも子供達の冒険に整合性のとれた行動や的確な因果関係に基づいた判断など期待していないし、「あっちじゃね!よくわからないけど絶対そう!」みたいな漠然としていて、かつ揺るぎない自信が子供時代を思い起こすノスタルジーなのだ。

NASAの施設を目指すとか、USB一つで世界を救うだとか、確かにチープで釈然としないけれど、それをリアリティに欠けるとか思ってしまったら、それってドゥニ・ヴィルヌーヴの映画を観る時と同じ目線で語ってませんかと言いたくて、こんな子供達目線のロードムービージュブナイルならば、目的意識がハッキリさえしていればそのクオリティは正直お任せって感じだし、その行く先々で出会う景色、光景が楽しめればいいと思う。一通りエピソードを終えればパパッと何十キロも進むので、冒険な感じが削がれてしまい、そこはもうちょい上手く編集してよと思ったが。

不意に集められた彼らは少しずつ暗い一面を持ち合わせていて、どこか個性的。分かり合えそうになかったのに、致し方なく行動を共にするうちに、割とすんなり“いつメン”になっていくのが子供の頃の友達とか仲間ができる感覚ってこんな感じだよねって共感できたら、そこがミソだと思う。あんなバカやったし、あんな気持ちになった瞬間があったし、今でもアイツらに会いたいし、って自分の記憶に触れてくるような感覚を覚えたら、それだけでいい映画なんじゃないかって思える。やれ予定調和だの展開が読めるだの、それでいいじゃないですか。ポップコーン食べながら観れるキッズ×コメディなんてそれくらいがちょうどいい。

エイリアンと戦うとか、マスタングを乗り回すとか、荒廃した街を冒険するとか、誰もいないショッピングセンターとか、子供の頃の夢物語を本当に映画が好きな人がそのまんま映画にしたらこういう感じで、子供の想像なんて大げさで荒唐無稽でしょって、そうやって見れたら名作にはランキングしなくても、なんかよかったなって思える映画なんじゃないか。

しかしダリウシュのギャグは好きだった。

「俺の服は服屋畳みしろよ」

「何畳み...?」

「金持ちの言葉だ、あんたは関係ない」

 

これ是非ギャグで使わせてもらう。