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モノとポップカルチャー、それっぽく言ったりたまに爆ディス

ブラックミラー シーズン5『待つ男』考察・解説・レビュー

 

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ソーシャルメディアが持つ危険性とは何か。デジタルコンテンツ時代に起こりうる問題は、現代では周知のことすぎて"テクノロジーがもたらす予期せぬ危機"とまでは言えず、他エピソードと比べて斬新な切り口ではない。設定が2018年とされているので、とりわけリアルタイムな問題提起である。

事件の情報収集は警察よりもソーシャルメディア経営陣が常に一歩先を行っていて、電話の細工や、蓄積されている膨大なユーザーデータ、デジタルテクノロジーによって、現場の警察官やFBIよりもカルフォルニアのオフィスにいる彼らの方が状況をいち早く把握し、犯人の行動を制御している。

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Twitterの創設者ジャック・ドーシーを風刺的にビリー・バウアーとして描いており、また登場するソーシャルメディアTwitterFacebookを組み合わせたようなもので、Facebookなどに見られる個人情報問題等も企業側から描かれている。その中でも一番の盛り上がりを見せる、ビリー・バウアーが使う『神モード』は、我々にそれを使ってほかに何ができるかを想像させる。SNSへの依存など、デジタルコンテンツ消費時代の危険性をふんだんに盛り込み、我々が住む社会はすでにシリコンバレーによって描かれたディストピアかもしれないということであろう。

最近米ナスダックで、とりわけ時価総額が多い企業をまとめて呼称されるFAANG(ファング)という言葉があるが、これはFacebookAmazonAppleNetflixGoogleの頭文字をとったものだ。これらの企業は本社をカリフォルニア州のサンフランシスコとサンノゼ周辺のシリコンバレーに置いている。だからITの聖地として、シリコンバレーとは象徴的な場所であり、こういった危機感を語るのに『待つ男』で登場するスミザリーンというIT企業も、当然ながらカリフォルニアに本拠地を持つという設定は外せない。

 

 

 

誰もがお気付きだろうが、上記で書き連ねたことは何一つ新しくない。正直、うんざりするぐらい聞き慣れた今時の問題提起といった感じだ。このuberスタイルでドライバーをするクリストファーが、なぜIT企業スミザリンのビルの下で客を待ち続ける理由、ビリー・バウアーに言いたいのこと、人質をとる理由、これらについて、大したギミックがあるわけでもないのに40分近くダラダラと見せられる。人質に取られた青年がインターンだとわかると人質にも同情してしまうため、全く緊迫感が生まれないし、銃が本物だ偽物だの騒ぐくだりや、スナイパーの発砲などで徐々に緊張感を高めようとしているが、非常にチープ。あんな近距離で外すスナイパーにもうんざりする。

 

娘を無くしたお母さんの最後のくだりについては、GoogleFacebookなどが個人情報やプライバシー、パーソナルなデータを取り扱う上で、どれほどの絶対的なパワーを、今も この瞬間もデフォルトとして所持していることについて再認識させるのには一役買っている。

あのお母さんが24時間ごとに何千通りのパスワードを試し続けているその盲目さは滑稽で、一般人が無意識にしてしまっていることを揶揄したいのだろう。

だからと言って作品として面白いかは別の話だ。

そもそもこの人質事件を起こしたクリストファーの過去にある交通事故とは相手の飲酒運転のせいではなく、スミザリーンを見ていた本人の過失であり、彼がビリーに話す依存性が高いだの批判は全く説得力が無い。婚約者がリベンジポルノや誹謗中傷などて病み自殺した、とかならまだしもソーシャルメディアそのものは因果関係ではないから相当バカバカしい。

 

クリストファーは、ビリー・バウアーから何でも力になると言われ、求めたのはグループカウンセリングで出会った女性が知りたがっている自殺した娘のソーシャルメディアのパスワードを彼女に開示すること。サブプロットとして描かれるこの女性の話は、必ずメインプロットとどこかで交わる必要があるが、彼女と娘の死について深く触れないためサブプロットとは言えない不十分なものになっている。となると、これが主人公にとってそんなにも重要なポイントだったとは言えず、ドラマにオチ付けさせるため、後付けしたようにしか見えなくなるのだ。それなのに、自分の脇見運転で恋人を事故死させたクリストファーよりも、理由もわからず娘が自殺しSNSアカウントの中に答えを求めている彼女のほうがまだドラマになりそうな気がするからこちらをイラつかせるには十分である。

 

そもそも人質がインターンであった理由も物語には直接関係が無い。上層部と面識がない、電話が無い、人質としての価値に欠けるなど、それらは主人公に困難を与えているかのように見えるが、インターンが心優しいキャラクターで黒人(登場人物のなかで彼だけが黒人である)であることから、彼に対して同情してしまうような作りになっており、ただただ薄いプロットになんとか肉付けしたようなものになっている。物語の推進力が落ちまくっている。

最終的に主人公が何かを乗り越え何かを得ることはなく、自らの起こした事故についての責任転移でたくさんの人が巻き込まれただけで、ただ滑稽であるだけだ。何を見せられているんだという気分である。正直、カウンセリングで出会った女性がパスワードを手にした時、自殺した娘のアカウントには何かクリスと関連性でもあったのかと予感したが、パスワード入力、エンターキーポチでエンドロール。それっぽくすりゃいいと思うなよ、しかも1時間越え。

深夜帯に若いアイドルと駆け出しの俳優がやるような日本のドラマみたいなクオリティであった。