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『僕らを見る目』解説・考察・レビュー

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1989年に起こった『セントラル・パーク・ファイブ』という冤罪事件を題材にしたミニシリーズだ。5人の少年たちが逮捕されレイプした罪で有罪となりそれぞれ6〜14年服役した。その後にすでに終身刑となった男がこの事件について自供し当時回収された犯人のものと思われるDNAと一致、5人は無罪となり釈放される。

 

彼ら5人のうち4人がアフリカ系、一人がヒスパニックである。違法な尋問によって嘘の自供を強いられ、白人の刑事や地方検事によって仕立て上げられたストーリーの中で彼らは20代を失ってしまう。

人種差別、白人の権力層、矛盾する立法、合同判決の悪、米国の刑務所システムの粗悪性、性同一性障害に対する嫌悪感いわゆるトランスフォビア、重犯罪者の社会復帰、その他多くの複雑なトピックに触れている。

それ故に4話構成計5時間のミニシリーズとしたのは必然的な構成である。彼らいかにしてスケープゴートとなり、服役から仮釈放までどんな苦悩があり、そして真実が明らかになるまでのプロセスは、到底映画の2時間ほどの時間制限では語ることができないのは、観てみれば深く理解できる。

 

非常に高い水準で表現する役者陣の演技力もさることながら、5時間という枠の中で徹底されているのは“人を描く”に尽きる。彼らがどんな日常にいたか、自白を迫られた時それぞれがどんな反応見せるか、家族はどう考えどう対処しようとするか、これらについて説明ではなく徹底して感情的に描かれ時間をかけることで、これでもかと言うくらいに観客を引き込む。

それらは濡れ衣を着せられた少年たちだけでなく、冤罪作った中心人物のリンダ・フェアステインは特に悪役として徹底的に悪として描き切る。事実を淡々と描くのではなく、ドラマティックに強く感情移入するよう作られていることは言うまでも無い。

 

『僕らを見る目』の中で、劇中を超えた次元で話さなければならない要素がある。それがドナルド・トランプの存在である。当時からアメリカの不動産王として多くメディアにも露出し影響力のあった彼は、「セントラル・パーク・ファイブ」事件を背景に4つのデイリー紙に広告を出し“彼らを処刑しろ、死刑を復活させろ”と発信する。この事実については、トランプの最初の政治的行動とも言われ、その発言は事件に大きく影響を与えている。過去に当事件を扱う作品は多くあったものの、今になってNetflixからリブートされるというのは、今だからこそ大きな意味があるのだろう。

今、何故か?と考えればこのドラマ化がドナルド・トランプをターゲットにしていることは間違いない。中心の5人にとって彼は悪魔でしか無いし、そう描かれるのだが、実際にはドナルド・トランプのこの発言で強姦、強盗、殺人が著しく減少している事実もある。当時の殺人は今の9倍であった。それらは支持派から言わせれば多くの“黒人やラテン系を救った”とも言えるだろうしオバマNetflixと数百万ドル希望の契約をしていることからドナルド・トランプに対して人種差別主義者というイメージを増幅させ、民主党候補を立てる目的としたプロパガンダ的な側面も読み取れそうな気もしてくる。

 

とはいえ、作品クオリティが非常に高いため、そういった政治的な意図は置いておいても、ストーリーや演技に純粋に魅了されるし、最も有名と言われるこの事件がNetflixという現代的なツールで知らない世代に語り継がれていくだけでも大きな価値がある。その時、若者はトランプに対して何を思うのだろうか。

当作品が公開されすぐさまリンダ・フェアステインは再びバッシングを受けたが、それよりももっと有機的な議論がある。