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モノとポップカルチャー、それっぽく言ったりたまに爆ディス

「NAMIMONOGATARI 2021」から何が学べるか?

 

8月29日に開催された野外フェスNAMIMONOGATARI 2021」には、ラッパーのZeebra(50)らが出演。緊急事態宣言下で8000人超を動員したが、観客はマスクをつけず密集し、主催者側は酒類を提供したことで大炎上している。

主催者はタワマン住まい!愛知〝密フェス〟に重大疑義 チケット返金トラブルも(東スポWeb) - Yahoo!ニュース

 

「NAMIMONOGATARI 2021」から何が学べるか?

 

言わずものがな、このイベントが不適切だったというのは大人の社会では共通の見解である。アーティストも観客も含め、自分たちが感染してもいいと思うのは勝手だが、感染が広がればどこかで死人が出てしまうかもしれないし、いつまでたっても自粛からは解放されない。誰でも到る正論である。

批判するのは簡単だ。しかしながら、音楽が好きだからこそ、このイベントから何か学べないか?と思いを巡らせてみる。

 

RHYMESTER 宇多丸さんの解釈

8/30のアフター6ジャンクションにて、時事問題に毎回意見を求められることを“学級委員じゃねえんだから”と冗談めかしながらも、HIPHOPの重鎮として言及した。今回のイベントには影響力の強いアーティストが揃っておりHIPHOPイベントとしても最大クラスであったが故、おざなりにはできない感情が伝わった。

僕の意見として言うならば、ヒップホップシーンはやんちゃでもあるけど、同時に意識のアップデートも含めていろんな意味で時代の先を走っているべき。ヒップホップシーンこそがいち早く進んだ手を打つような、意識のアップデートをして、最先端を行ってほしい」アフター6ジャンクション 8/30

 

“意識のアップデート”とは何か?

音楽史を語る上でHIPHOPというジャンルはあらゆる功績を残している。音楽史を学ぶ上でよく目にする『メロディーを軽視する音楽は時代を変えてきた。』という一文。

これはPUNK,FUNK,HIPHOPなどがそれに当てはまる。音楽三代要素の『メロディー・ハーモニー・リズム』のいずれかが、大きく再解釈される機会には必ず新たなジャンルが生まれ、それは以降のポピュラーミュージックに絶大な影響を及ぼしていく。HIPHOPの“ラップ”はそれまでにないほど、歌というものに新たな価値観を生み出した。

もちろんそれだけではない。サンプリングしてトラックを作るという作曲方法もそうである。時を超えてサンプリングはスマホアプリで誰でも楽しめるほど身近なものとなり誰でも音楽制作ができるツールとして進化している。2013年にはこのサンプリングの解釈を変えたDaftpunkの「Random Access Memories」がグラミー賞を受賞したが、HIPHOP無しには起こり得なかった音楽史の1ページである。

JAZZやR&B/SOULをサンプリングしながら発展したことで80年代にはカウンターカルチャー的だったHIPHOPも、JAZZ、R&B/SOULミュージシャンと協力関係・相乗効果を生みながらグルーヴ(リズム)の再解釈が行われ90年代に大きな確変期を起こした。これは90年代初めにJ Dillaなどに代表される。

そして宇多丸さんも触れていた、人種差別、性差別、貧困格差、LBGTなど歌うメッセージ性である。社会風刺とも違う、プロパガンダでもない、人類共通の葛藤はラップに乗せて、そして音楽的守備範囲を超えてHIPHOPは確立されてきたのである。

これらは宇多丸さんの言うアメリカでは成功している意識のアップデート”である。日本のHIPHOPアメリカから輸入され、時に日本独自の解釈や手法をとりながら発展しているが、そもそも今は人類共通の敵に打ち勝たなければならない時代である。

HIPHOPに従事するものとして、この時代の最先端を、先陣を切って実現していくべきではないか。少なくとも“従来の盛り上がり方”をそのままやることではないのは明白だ。

 

Creepy NutsのDJ松永さんの語る葛藤

8/31のオールナイトニッポン0の冒頭、このイベントに対して20分思いを語った。コロナ禍でもいくつか参加したイベントを回想し、そこには主催者やスタッフなどの含めた様々な苦悩や葛藤があったことを語る。地域、行政、観客、世間、様々な方面の理解を得ながら何とか開催できた日には、イベントを作り上げようとしたものたちが当日の朝には、開催できることに涙がこみ上げるような思いになっていたと語っている。

 

読み取れた現場の最先端

 

集客を伴う商売をする者の中でも、最大限に不利な立場を強いられているライブやイベント関係者は葛藤している。不要不急というネガティブな言葉を背負いながらも、右往左往しながら全力を尽くして実現しようとする。そこには手探りの感染対策や、ある時は中止・決行の判断を迫られる。松永さんの話には、誠実の現場のリアルが伝わってくるし、そこには2019年まで無かった現場の最先端がある。

少なくとも、“中止・延期”一辺倒だった2020年を乗り越えて前に進もうとしている人たちが大多数で、誠実に音楽イベントの必要性を模索している。

この業界の裏方の方々も含め、ほとんどの人たちは、不要不急と言われてしまう音楽イベントに生活がかかっている。だからこそ、音楽を共有する快感を実現させたい想いは強いはずだ。

感染予防的な物理的なことだけでなく、音楽の必要性とは?イベントを行う意味は?リスクを負いながら得られるものは何か?コロナ禍のイベント開催には、より意義を問う精神的なアップデートも研ぎ澄まされていく。

件のイベントにより、真面目に誠実にやってきた方々の想いが踏み躙られた絶望感は計り知れない。

 

よりアップデートが加速する

今回の件で、どう考えてもHIPHOPに限らず、イベントやライブはやりづらくなった。このことにより中止を決断するイベントも出てくるだろう。しかし、世間の批判どうのこうのよりも、関係者たちによるパンデミック化のイベント開催方法とは何か?という議論は加速するはずであるし、さらにパンデミック化のイベント開催の意義は何か?というテーマも見えてくる。大きな失敗を元に一つのテーマとして与えられた、そう考えれば、これを期にもう一歩前に進むことも可能なのかもしれない。

何より最も大きな打撃を受けたのはHIPHOP界である。いつの時代も淘汰されながら、アップデートすることで確立してきたHIPHOPが、この批判からどう立ち上がるか。