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モノとポップカルチャー、それっぽく言ったりたまに爆ディス

やはりPOPEYE構文について考察するべきではないか。


POPEYE構文ってなんだろう。

本当に信頼のおける人というのは、人様にみせないところにこそ気をつかっているのもだ。「それどこの?」って聞きづらいけど4人に聞いた下着の話。BEAMSファッションディレクターはヅィメリーのパンツと5年来の付き合い。チャールズ皇太子もこのブランドを愛用しているのだとか。

 

おしゃれで、ポエムで、ちょっとイタい。人によっては気持ち悪い。

そんなPOPEYE構文について考え始めたら夢中になってしまって、思いつく度、特徴とか文法的なこととか書き始めていて気づいたら数時間。あれ、なにやってるんだと我に返るも、こんなに無意味なPOPEYE構文への愛も、無駄にするのはもったいない。

もうシティーボーイズでもなんでも無いと、思慮分別を完了した30代なりたての元愛読者として、なんの役にも立たないし専門的でもないPOPEYE構文について書き連ねていく。

 

さて、POPEYE構文とはなにか。もう結論から言うことにする。

POPEYE構文とは、雑誌POPEYEの特徴的な文章や言い回しのことである。倒置法と体言止めを多用し、複文/重文を避け単文で構成する、というのが基本である。さらに「〜しがち。」「〜みてはどうか。」「〜なんだ。」「〜けれど」「〜ではないか。」「〜しまって。」などを多用し、さらに横文字は「ヒップな」「シーンで」「○○ライクな」とか、たまに『贅沢』を『ゼイタクをしてみては』とか、「〜だってコト。」とかカタカナ変換も駆使し、構成される。

 

冒頭の文を見ていただくと、きっちり単文化されていて、体言止めも倒置法も活用されている。

 

 

やっぱりPOPEYEの文ってさ、みんなも思ってたよね

一昨年くらいに、2017年発売の「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」という本を興味半分で買ったら、結構面白い。これはカップ焼きそばの作り方を、いろんな文豪スタイルで書いているギャクセンスがガン光りしている一冊である。村上春樹はのっけから笑ったし、コナン・ドイルも、三島由紀夫もセンスあるのだけど、落合陽一とかナンシー関とか入ってて、あ、そっちもありなんだとか思っているとPOPEYEが入っているわけで、大爆笑なんだ。POPEYE風のカップ麺の作り方。

「うわー、まじこんな感じだわ」って笑いながら読んで、考えたのは、やっぱりPOPEYE構文って完成されてるよなってこと。

(POPEYE構文について考えすぎて普通の文が書けなくなっています)

さらに最近になって、POPEYE構文というキーワードでバズっているツイートがあってこれがとにかく秀逸。

“みんな気付いてる” “秘訣ってことかも”

この二つが強烈なKOパンチなわけなんだけど、もちろん“シティボーイズ”みたいな代名詞とか“イサギ良さ”っていうおしゃれの秘訣ワードは、『これはPOPEYEである』とはっきり印象付けている。

20代そこそこの頃、POPEYEを読んでいてびっくりしたのは、シティーボーイズのラフなスタイルとして紹介されてたのがエルメスのシャツ(¥90,000)/ニューバランス (¥27,000)ってな感じで、“さらりと着たいシャツ60,000円”っていうのは読者&元読者に宛てた出血大サービスである。(よく考えると出血大サービスってすごい言葉だな)

 

POPEYE構文セレクト?

ちなみにPOPEYEのファションディレクターの長谷川昭雄氏とフイナムが運営するWEBマガジンも、基本同じような構文で展開されているので、同じようなPOPEYE構文が見れる。ここで、お気に入りのPOPEYE構文セレクトからいくつかご紹介。

 

エルメスタートルネックは計算されたルーズなシルエットでネックのたるみもちょうどいい。そしてなんといってもシルクだから、肌触りが極上なんだ。20年後にクローゼットから引っ張り出して着てみたい、そんな可能性を持つアイテム』

 

『デザインを学んでいたのに、レイアウトを考えているうちに夢中になってしまって。気づいたら売る方に専念するようになっていた。僕はもともとモノが好き』

 

『あっちでシュッ、こっちでシュッ、しょうがないことだけど、消毒もしすぎだから手相も変わるだろうと思ったり。それはさておき、店頭のスプレーが苦手で最近持ち歩いているのがコレ。』

 

『このワクワクは尋常じゃない。どうしてって聞かれると困ってしまうけれど、打算無しで挑戦する人と、それ何の意味があるのって言う人。きみはどっちだい?』

 

 

さて、どうしてPOPEYE構文なるものが生まれたのか。

 

POPEYEがリニューアルされ現在のスタイルが確立されたのが2012年だ。ちょうどこの10年代は、端末・情報・通信の急激な発展によりSNSや動画媒体の普及が顕著に見られる。その中心人物的Youtubeをとっても再生時間は10分ほどが最もマスであるとされており、tiktokなどのショート動画も、インスタグラム ・Youtube共に参入している。これらは、“2時間の映画が見れない”という問題定義にも共通するが、やはり読み終えるまでに数時間を要する読書は減り、複文・重文などが多用された——一般的な——文章を読むのにストレスがかかっている。話し言葉や単文で構成されたPOPEYE構文は、ファッション雑誌がより読みやすいものとしてあるために、必然的に生まれたものと言えるのではないか。記事中で紹介した、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』にもPOPEYEだけでなく、音楽雑誌『rockin' on』『ムー』などもスタイルとして採用されている。“若い人は文章が読めない”とまで強く言えるものではないと思うが、多少なりそういった背景が確実に影響しているはずだ。とはいえ、POPEYE構文としてカテゴライズされはじめたという事実は、何度目かの変化の序章だと考える。文章は常に微妙な変化を繰り返してきた歴史があるのだから。例えば、1970年代にアメリカが“ジョギング”という言葉を生み出し、一般人が健康や趣味でランニングをするという市場を作り出したように、様々な構文は定義付けられ、カテゴライズされたあらゆる構文は、さらにあらゆる市場を生み出し日本語の可能性をさらに広げるのでは無いか。