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シドの人生最大のトラウマとウッディのエゴ。考察・解説


我々が忘れていることが一つある。それは、彼に人生最大のトラウマを与えてしまったことだ。彼が持つ創造性は失われ、有望な未来のストーリーテラーは、ごみ収集員として再登場する。

 

シドを悪者と理解するようにできている。

トイストーリーのシドと言えばシリーズで最も悪名高き悪役である。シドは、おもちゃに爆薬を取り付け破壊し、おもちゃを解体し、それらを合成したミュータントを作り上げる。彼の唯一の友人である飼い犬のスキッドは暴力的で、それをわかっていながら人形たちをおもちゃとして与える。おもちゃを愛し、生きているかのように大切に遊ぶアンディとは対象的だ。そして我々観客は、ウッディたちの目線でトイストーリーの世界を覗き見していることで、シドが悪い人物であると簡単に理解してしまう。

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シドは残酷か、ストーリーテラーか。

特にウッディらにとっては、シドの遊びは残酷だ。さらに持ち主がおもちゃを大切にするアンディであればなおさらだろう。しかし、シド自身は、おもちゃを苦しめている自覚は無い。シドにとって紛れもない事実は、おもちゃ無機物だということだ。時に医者で、時に研究者で、科学者にとなる。シドが創造するストーリーの中で、おもちゃは小道具でしか無い。普通の子供なのだ。おもちゃは、考えないし、感じない。

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ウッディの脅し

シドの家に迷い込んだウッディは絶望的な状況から脱するために、禁じ手を使う。それはシド(人間)の前で、生きた姿を見せてしまうことだ。これにはシドも喚き叫び恐怖する。それ以来シドはおもちゃを怖がった。これほどまで人生に影響を与えるトラウマは無い。そして、同時にウッディがシドから奪ったものは創造力である。

思えば、シドは科学者、医者、研究者になりきっておもちゃを改造していた。確かにアンディがおもちゃの世界を想像して遊ぶのとは違うが、シドにはシドなりの創造力があった。それは他の子供と何ら変わりはない。おもちゃは、シドにとって子供がそれぞれ自分の想像する世界を創るためのプロセスに過ぎなかった。おもちゃを憎んでいるわけでもなく、狂気性や破壊的衝動があるわけでもなく、宇宙飛行士、科学者、医者...憧れる世界を表現する子供の姿の一つである。そして、アンディ家のパーティーにたくさんの友達が集まっているのに対して、シドに友達がいる描写は一切無い。家庭環境も健全には見えない。孤独に、創造する、シド。

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大学生とゴミ収集員という皮肉

シドがここで創造することを辞めてしまった先に待っているのは何か。ゴミ収集員である。大学生になるアンディと、ブルーカラーのシドとは何とも皮肉である。ウッディは運命を変える力を持っている。シドの家に迷い込んだのは不幸な運命だったかもしれない。それに逆らい、もう一度バズと共にアンディのもとへ帰る姿はヒーローだ。しかし、ある視点から見ればウッディのエゴとも言える。変えたのは自らの運命だけでなく、シドの人生も変えてしまったからだ。誰かにとって大切なことで、誰かにとって大切なことを犠牲にできるか。シドが根っからの悪党でないからこそ、悲しさを覚えるのだ。

 

おもちゃが生きていることを知ってしまったシドのトラウマ。それでもおもちゃのロッツォを手にとりトラックにくくりつけたのは何故か。冷静に考えて、おもちゃに苦しい思いをさせたら、トラウマが蘇るはずだ。もしかしたら、彼はトラウマ故に、目の前にある死にゆくおもちゃを放置することができないのかもしれない。自分だったらそうだ。この世界で、唯一自分だけがおもちゃが生きていることを知っている。そして、おもちゃが捨てられていたら、見て見ぬ振りできるか。

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ウッディのエゴ

シドに『おもちゃは大切にしろよ?』とウッディは言う。悪意があったわけでも無いシドに、おもちゃがしゃべるという恐怖と同時に与えたこの言葉は、ウッディのエゴではないか。

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トイストーリー2にて、ウッディは希少なヴィンテージ人形だったことが明らかになる。さらにジェシーとプロスペクターのら3体が揃うと最も価値があり、博物館で永遠の命(破棄されない)を手に出来る。ウッディは迷う。一度は博物館行きを了承したが、バズたちが助けに来ると、考えを改めアンディの元に帰ることに決める。ここで、一度も箱から出された事のないプロスペクターが立ちはだかる。プロスペクターにとって、ウッディの存在は自分の博物館行きを左右する。是が非でもウッディを留めたいのだ。ここでも描く視点の妙が発揮されている。私たちがスルーしているのは、プロスペクターが誰にも愛された事が無いという事実である。ウッディがいくら子供に遊ばれる事の大切さを説いても、プロスペクターには理解が出来ないのだ。争いに勝ったウッディは、プロスペクターを見ず知らずの女の子のリュックに入れてしまう。彼女がおもちゃでどんな遊び方をするかもわからないはずなのに。

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おもちゃはこうあるべきである、持ち主はこうあるべきである。ウッディは、自分の思想や価値観に絶対的な自信を持っている。アンディの一番のお気に入りだから、ずっとリーダーだった。時にヒーローだった。だから、ウッディの考えや行いは全て正しいか。

シリーズはトイストーリー3で完璧な着地を見せたはずだった。

蓄積したウッディのエゴへの回答

こんなに綺麗に終わった3部作に続きなど必要なのか。トイストーリー4で見ることができたウッディは、私たちが知っているウッディでは無かった。劇中で一度も持ち主から愛されないのだ。そして自分が何者であるかを見失い苦悩している。

我々人間は、自分が何者であるかいつだって迷う。同時に、こうあるべき自分の姿、理想の未来象も持ち合わせている。しかし、そうはなれないと現実に折り合いをつける時が来る。それが、ウッディに来るとは考えもしなかったが、よく考えてみれば自分にだってそんな苦悩が突然降りかかるとは予想していない。

子供に愛され、遊ばれることが本当の幸せ。持ち主に尽くす事がおもちゃの役目。トイストーリー4はウッディが積み重ねてきた経験や思い出によって、凝り固まってしまった思想や価値観からの脱却がテーマになっている。

いつか無くなると知りながらも、しがみついていた、おもちゃのあるべき姿。もうウッディにはシドにしたことと、同じことを繰り返せないだろう。プロスペクターにも、ロッツォにも。

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