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30周年『TOKYO STYLE/都築 響一』時代に取り残された一冊が今の時代を語るとき

『TOKYO STYLE/都築 響一』

 

ちょうど30年前に出版された——『TOKYO STYLE/都築 響一』——。サブカル的感受性の高い人が、20代を終えて大人になった頃に開くのがちょうどいい本だ。作者の都築 響一氏はポパイ・ブルータスで現代美術、建築、デザイン、都市生活などの記事を主に担当している作家である。本書は1993年出版された個人の部屋を被写体にまとめた一冊である。もともとはアート本サイズだったが、1996年に文庫化され、2023年第14刷まで発行されている。

前書きに根本的なテーマがが書かれている。『僕らの生活はもっと普通だ。木造アパートや小さなマンションにごちゃごちゃとモノを詰め込んで、絨毯の上にコタツを置いたり、畳に洋風家具を合わせたりしながら結構快適に暮らしている。——部屋は確かに狭い。でも中に詰まっているものは結構高級品だったりする。わざと都心の狭い部屋にすんで街を自分の部屋の延長にしてしまう。そっちほうが気が効いてるんじゃないかと考える人間が、この都会にはたくさんいる。』

この本に登場する大量の“部屋”は、よくあるインテリア雑誌のようにすっきりしていて、有名なブランド家具やヴィンテージ雑貨でデザインされた状態の模範的な部屋とは全く違う。ごちゃごちゃとモノに溢れていて、それは無造作に積み重なり部屋に散乱していて、とてつもなく生活感がある。そしてどれもが東京のワンルーム。このTOKYO STYLEを思えば、いつの時代も巷に溢れるインテリア雑誌がいかにリアルと解離しているか再確認させられるのだ。そう、東京のひとり暮らしは特殊である。正直最安地区で7万〜8万出してやっとそれなりのワンルームマンションを借りられる。自分の経験では音楽家だったから音漏れ対策で鉄コンのマンションが条件だった。まったく売れてないフリーター時代で出せる家賃は5万円代が限界。そうすると、練馬区板橋区江戸川区あたりで探して築25年・徒歩10分・ユニットバス・6畳・18㎡。頭のおかしくなるような狭さである。一方、都心まで電車で1時間半程度の郊外で同じ家賃で探せば、ギリギリ3LDKに住めたりする。それでもなぜ東京がいいのか。これには明確な一つの理由なんてなくて、様々な小さな理由が複合的に込み入っているのである。そして、それは部屋に現れる。部屋にあるすべてのモノが、自分がここで生活してる因果関係を表現している。そんな人たちが大量にいる東京という都市のリアルがTOKYO STYLEだ。1993年の部屋だから、そこにあるものは結構古い。部屋の風呂やキッチンなどの設備も今の感覚では古びている。でも、根本は変わらない。全く違和感なく、これは現在も変わらない東京のリアルだと自然に受け入れることができる。それは、東京という街の本質が変わらないからなのか、日本経済における、失われた30年と言われる所以なのか。ピンポイント世代の1990年代に20代を過ごした50代はノスタルジーを感じるだろう。そう、そもそも東京実家組と上京組には決定的な価値観の違いがあって、多分だがこの本は実家組にはピンとこない、古びたただのインテリア本だ。東京で20代を過ごした、特に上京組こそエモーショナルで記憶の断片に触れてくる。あの時あの部屋に大量にあったモノはどこに行ったんだろう。あの時出会ったあの人はいま何をしているだろう。あの時の生活は自分にとって何だったんだろう。そんなことを考えながら、今その綺麗なソファーに座って、綺麗なテーブルに置いたコーヒーでも飲みながら、間接照明に当たり、TOKYO STYLEを読んでみてはどうだろうか。